
2025年10月26日
日本国内における展示会市場・開催動向を整理し、次に出展企業にとってのメリットを整理した上で、考察・結論する
序論
日本経済において、展示会(見本市・トレードショー)は、BtoB・BtoCを問わず、企業の製品・サービスのプロモーション、商談、情報収集、ネットワーキングの場として長らく活用されてきたイベント形式である。
特に、デジタ ル化・グローバル化が進む中で、リアルな接点を通じた「体験/対話型」のマーケティングチャネルとしての価値が再評価されつつある。
しかし一方で、展示会にかかるコスト・運営の手間・成果測定の難しさといった課題も存在しており、出展を検討する企業にとっては、メリットを最大化するための戦略立案が重要となる。
本稿では、まず日本国内における展示会市場・開催動向を整理し、次に出展企業にとってのメリットを整理した上で、考察・結論とする。
本論
1. 日本の展示会市場の現状

1.1 開催動向・規模
日本国内において、2019年には展示会・見本市(BtoB主体)が 603件 開催され、出展社数が77,041社・団体、来場者数が7,490,484人に至ったと報告されている。
開催カテゴリーではBtoBが全体の約93.7%を占めるなど、産業用途(企業対企業)向け展示会が主流である。
株式会社才流(サイル)|新規事業開発・BtoBマーケティング・法人営業
市場規模については、国内の「展示会産業」あるいは「イベント・展示会市場」の推計がなされており、例えば2014年時点では「主催者事業費」「出展者経費」「来場者消費支出」を合算した上で、数千億円規模とされている。
2024年における「イベント関連展示会・見本市を含むイベント産業」では、展示会・見本市が若干減少し、2019年比で84.9%程度にとどまったという報告もある。
1.2 特徴・トレンド
展示会は「テーマ/業界特化型」が多く、一定の関心・ニーズを持つ来場者が集まる構造になっている。
リアル開催が回復基調にある一方で、オンライン・ハイブリッド形式の展示会も登場しており、参加形式・付加価値(デモ体験、VR/AR、商談マッチング機能)などが進化している。
出展者・来場者双方の効率を高めるため、例えば統計・認証制度(日本展示会認証協議会=JECC)が設けられ、展示会の国際競争力・品質管理の強化が図られている。
2. 展示会出展のメリット

企業が展示会に出展することによって得られうる主なメリットを整理すると、以下の通りである。
2.1 新規顧客・リードの獲得
展示会では、短期間に大量の来場者・出展社・関係者が集まるため、「一度に多くの見込み顧客と接触できる」点が強みである。
特に自社の認知度が低 い場合でも、展示会というプラットフォームを活用することで「集客力のある場に乗る」ことが可能となる。
さらに、展示会来場者の多くが「そのテーマに関心を持つ人/企業」であるため、ターゲット顧客と出会いやすい。
★評価:★★★★☆
コメント:特に新規営業チャネルとして非常に有効。だが「接触=成約」にはならないため、質を見極めるフォローが重要。
2.2 ブランド認知・体験価値提供
展示会は、自社ブース・実演・体験ゾーンなどを通じて、資料やWEBだけでは伝わりづらい「実物」「体験」「臨場感」を提供できる。
多数の来場者に対して短時間で自社の存在をアピール可能であり、潜在顧客への幅広い認知拡大につながる。
★評価:★★★★☆
コメント:ブランド/製品イメージ強化に適しており、パイオニアや差別化を狙う企業には特に有効。
ただし、体験設計・ブース設計にコスト・工夫が必要。
2.3 既存顧客との関係強化・深耕
出展を通じて、既存顧客や取引先をブースに招待し、新製品紹介や顔を合わせたコミュニケーションを図ることで関係性強化が可能であ る。
また、休眠顧客・潜在顧客との接触機会にもなり、リマーケティングの場として活用できる。
★評価:★★★☆☆
コメント:既存顧客向けのフォローアップ施策として効果的だが、「新規顧客獲得」ほどのインパクトは出づらい可能性がある。
2.4 市場・競合・顧客の“生”情報の取得
展示会では、来場者の反応・質問・動線などを直接観察でき、アンケート・ヒアリングを通じて顧客ニーズの把握や商品の改善点を得やすい。
また、同時に出展する競合他社を視察でき、自社ポジション・差別化戦略を客観的に見直す機会にもなる。
★評価:★★★☆☆
コメント:マーケティング/R&D視点として非常に有用だが、これを活かすためには「収集した情報をどう事業に反映させるか」の体制が重要。
2.5 効率的な営業・マッチングの場としての活用
特定テーマに関心を持った来場者が来るため、通常営業よりもターゲットの“質”が高く、商談機会創出が期待できる。
短期間・限定空間で多くの「名刺交換」「出会い」が可能で、営業効率を高める可能性がある。
★評価:★★★☆☆
コメント:営業のリードタイム短縮、BD(ビジネスディベロップメント)活用に適。反面、フォローアップがないとリードが死にやすい。
3. 出展を成功させるための留意点

出展メリットを享受するためには、以下のようなポイントが重要である。
出展目的・KPI(例:名刺数、商談件数、成約件数、ブランド接触数)を明確に設定する。
ブース設計・レイアウト・体験設計(目立つ装飾、体験デモ、来場者動線など)を工夫する。
展示会後のフォローアップ体制(リードナーチャリング、商談進捗管理)を事前に準備する。
出展コスト(ブース賃料・設営費・人員費・交通宿泊費など)と見込リターン(商談・契約・リード価値)を事前に見積もり、リスクリワードを検討する。
来場者データや反応を収集し、次回出展や製品改善に活かす仕組みを構築する。
結論
日本の展示会市場は、規模・件数ともに企業のマーケティング/営業チャネルとして重要な位置を占めており、特にBtoB分野での開催が主流である。
企業が展示会に出展することで、「新規顧客獲得」「ブランド認知の拡大」「既存顧客との関係強化」「市場・競合情報の取得」「営業効率化」など多面的なメリットを得ることが可能である。
一方で、出展コスト・運営工数・成果の追跡・フォローアップといった課題も明確である。
従って、展示会出展を単発の“イベント”と捉えるのではなく、マーケティング・営業・製品開発・ブランディングといった企業の戦略の一環として位置付け、明確な目的設定と体制整備を伴うことが、メリットを最大化する鍵となる。